脳卒中とは
脳卒中とは
脳卒中とは、脳の血管がつまったり破れたりして、脳機能に異常をきたしてしまう病気です。2017年の統計では日本人の死亡原因の第3位で、社会の高齢化に伴い、脳卒中の有病者数はますます増加しています。また、脳卒中は手足の麻痺、歩行障害、言語障害などの後遺症が残ることが多く、寝たきりの最大の原因となっており、高齢化社会を迎えた現在「健康寿命」を維持するために最も気をつけなければならい病気です。
脳卒中の3つのタイプ
脳卒中には、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3つのタイプがあります。
1)脳梗塞
脳の血管がつまる病気です。血管がつまることでその先の脳細胞に血液が行き届かなくなり脳組織に障害が生じます。脳梗塞には主に3つのタイプがあります。
- ラクナ梗塞
脳の血管が枝分かれした穿通枝と呼ばれる細い動脈が詰まり、直径 1.5cm 未満の小さな梗塞が起きた状態を「ラクナ梗塞」といいます。主に高血圧が原因で、以前から日本人に最も多いタイプの脳梗塞とされてきました。小さな梗塞であるため症状は軽症なことが多く、場合により自覚症状が全くない場合もあり「無症候性脳梗塞(かくれ脳梗塞)」と呼ばれています。
- アテローム血栓性脳梗塞
脳を栄養する動脈のうち比較的太い血管がつまります。主に動脈硬化が原因で起こり、最近ではこのタイプの脳梗塞の患者数が増えてきています。特に、糖尿病や脂質異常症、肥満などと併発することが多いため、それらの疾患を持っている人は注意が必要です。
- 心原性脳塞栓
心臓の中でできた血液のかたまり(血栓)が脳に流れて、脳の太い血管をつまらせてしまうタイプの脳梗塞です。心原性脳塞栓症の原因の多くが、不整脈のひとつである心房細動です。この不整脈によって、心臓の中で血液が固まって血栓ができやすくなります。心臓でできた血栓は大きくて溶けにくいため、脳梗塞の中では重症になりやすい病気です。高齢者に多く見られ、今後増加していく可能性があります。以前はラクナ梗塞が多かったのですが、最近では、生活習慣の変化、高齢化などに伴い、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓が増加しています。
2)脳出血
脳出血は、脳の内部の細い動脈がもろくなり、血管が破れてしまう病気です。高血圧が原因の脳出血が大半を占めます。血圧が高い状態を長年にわたって放置しておくと血管の壁がもろくなり出血しやすくなります。年齢とともに血圧は上昇していきますが、高齢だからといって高血圧を放っておくことは危険です。
3)くも膜下出血
脳を栄養する動脈の分岐部にできるこぶ(脳動脈瘤)が破れて、脳と「くも膜(脳の表面を覆っている薄い膜)」の隙間に急速に出血が広がる病気です。突然バットで殴られたような、これまで経験したことがない激しい頭痛が起こることが多いといわれています。初回の出血では致命的に至らない場合でも、24時間以内に再出血することが多く、注意が必要です。また、高齢者だけでなく、40-50歳代の働き盛りでも発症することがあるのも特徴のひとつです。極度のストレスや排便時のいきみ、過度の仕事をしたときなど、急に血圧が変動したときや気温が大きく変化するときなどに発症することが多いとされています。
一過性脳虚血発作
脳の血液の流れが悪くなることで、運動麻痺や感覚障害などの症状が出現します。脳梗塞であればそれらの症状はなくなりませんが、一過性脳虚血発作では症状が通常5~15分以内に、長くても24時間以内に自然になくなります。症状が短時間で消えてしまうため、軽く考えてしまいがちですが、そのまま治療せずに放置していた場合、10%の方が90日以内に脳梗塞を、20~30%の方が数年以内に脳梗塞をおこします。特に、何度も一過性脳虚血発作を繰り返している、発作のたびに症状が強くなる、持続時間が長くなるといった場合は脳梗塞を起こす可能性が高く、要注意です。
脳卒中の症状
脳梗塞や脳出血では以下のような症状が突然に出現します。脳出血では頭痛を伴うことがありますが、脳梗塞では通常、頭痛は伴いません。
- 突然、片方の手足・顔半分の麻痺・しびれが起こる
(手足のみ、顔のみの場合もあります) - 突然、ロレツが回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解できない
- 突然、力はあるのに、立てない、歩けない、フラフラする
- 突然、片方の目が見えない、物が二つに見える、視野の半分が欠ける
脳卒中では突然おこることが特徴です。そして、一過性脳虚血発作ではこれらの症状が5~15分以内、長くても24時間以内になくなることが特徴です。
上記以外にも、脳卒中に関連して以下のような症状があります。
- 突然、意識がなくなる、呼びかけで眼を開けても反応が鈍い
- 突然、めまいがする
- 突然、食べ物や飲み物を上手に飲み込めなくなる
脳卒中の原因
脳出血では脳を養う動脈がもろくなり破綻して起こります。脳出血の発症時には血圧は異常に上昇していることが多くみられます。出血により脳組織にダメージが起こります。脳梗塞や一過性脳虚血発作では、血液のかたまり(血栓)が脳の血管につまり引き起こされます。脳の血管がつまったままでは脳組織が死んでしまいます。つまった血栓がすぐに流されることで、脳細胞のダメージが回復し症状がなくなるのが一過性脳虚血発作です。また、心臓にできた血栓が脳の血管に流れてきてつまり、短時間で再開通する場合もあります。脳の症状が一過性に改善しても、依然として脳梗塞が起きやすい状態がそのまま持続していると考えてください。
発症時の対応
脳卒中と思われる症状が現れた時点では、脳出血か脳梗塞かの区別、また一過性脳虚血発作かどうかも判断が難しいです。また、症状がすぐにおさまったからといって、そのまま様子を見るのは禁物です。必ず神経内科や脳神経外科などの専門医を受診して下さい。
脳卒中の予防
1)脳卒中予防のポイントは危険因子を知ることから!
脳卒中の「危険因子」と呼ばれている生活習慣や病気を持っている人は脳卒中を起こす危険性が高いといわれています。しかも、持っている危険因子の数が多ければ多いほど脳卒中の危険性が増すことがわかっています。脳卒中を予防するには、自身が持っている「危険因子」を知り、できるだけ早い段階で危険因子を減らすことが大切です。危険因子は生活習慣の見直しで減らすことができます。
2)脳卒中の危険因子となる病気とは?
脳卒中を引き起こす病気として、「高血圧」、「糖尿病」、「不整脈(特に心房細動)」、「脂質異常症」があります。中でも、「高血圧」は脳卒中予防の最大のポイントです。
高血圧
高血圧になると、脳の血管に強い圧力がかかり、傷つきやすくなるため脳の血管がつまったり、破れたりする危険が高くなります。普段から自分の血圧を知っておくことが大切で、血圧が高いまま放っておくのは危険です。収縮期/拡張期血圧が140/90が目安となります。これより血圧が高い方は医師の診察を受けてください。
糖尿病
糖尿病を放っておくと動脈硬化の原因となり、脳梗塞の危険性が高くなります。糖尿病は、脳卒中だけでなく、心筋梗塞、腎機能障害、網膜症、末梢神経障害などの危険因子でもあります。糖尿病を指摘されたら、医師の診察を受け、正常な血糖値を維持することが大切です。
不整脈(心房細動)
心房細動では、規則正しく動いているはずの心臓に何らかの障害が起こり、心臓の心房と呼ばれる部屋が不規則に収縮するため血液が心房内に停滞してしまい、血液のかたまり(血栓)ができやすくなります。この血栓が脳に流れて脳の血管をつまらせること(塞栓)で、脳梗塞を引き起こします。特に高齢者に多いといわれていますが、脈のリズムが不規則だと感じたり、心臓のドキドキを強く感じたり(動悸)したら、まず、自分で脈を確かめてください。不規則な脈を感じたら医師の診察を受けてください。
脂質異常症
脂質異常症は動脈硬化を進みやすくし、総コレステロールやLDL(悪玉)コレステロールが高ければ高いほど、脳梗塞、特にアテローム血栓性脳梗塞の危険性が高くなります。コレステロールや中性脂肪の値が高いと指摘されたら放置しないで早めに生活習慣を改善し、必要に応じて治療を始めてください。
3)脳卒中の危険因子となる生活習慣とは?
普段の生活習慣の中にも脳卒中を引き起こす危険因子が潜んでいます。脳卒中になりやすい生活習慣に当てはまりませんか?
「タバコ」はやめましょう!
喫煙により脳卒中になる危険性が高まりますが、現在タバコを吸っている人でも、禁煙することで脳卒中になる危険性は下がります。脳卒中発症率は禁煙して2年で下がり始め、5年経てば吸わない人と同程度になるといわれています。飲み薬、パッチ、ガムなど禁煙を補助する様々な薬がありますので、禁煙が難しいと感じている方は医師に相談しましょう。
お酒の飲みすぎに注意!
適量を過ぎれば体の毒となり脳卒中になる危険性が高まります。飲みすぎないことが重要です。以下の「1日の適量の目安」の量を参考にしてください。
- ビールなら、中ビン1本(500ml)
- 日本酒なら、1合(180ml)(焼酎ならその半分)
- ウイスキーなら、ダブル1杯(60ml)
- ワインなら、グラス2杯(240ml)
食事バランスの心がけを!
塩分や脂肪分の多い食事は、高血圧、脂質異常症などの病気を引き起こし、脳卒中の危険性を高めます。日頃から減塩、食事バランスの改善を心がけてください。
- 減塩の工夫
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- お醤油の量を減らす
- 酢や香辛料などを利用して味付けを工夫する
- コレステロールを増やさないための工夫
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- バター、生クリームなど乳脂肪をとりすぎない
- 即席麺やスナック類などを控える
- チョコレートなど甘いものを控える
- 肉(とくに脂身)を控えて、青背の魚を積極的にとる
- 食物繊維を含む食品をとる
運動習慣を身につけましょう!
運動習慣のある人は運動習慣のない人に比べて、脳梗塞を発症する危険性が低くなるといわれています。自分の体力にあった運動を続けてください。
肥満に注意!
肥満は脳卒中の危険因子である高血圧症や糖尿病の原因となるため、間接的に脳卒中の危険因子となります。「太り気味かな?」と感じている人は、食生活や運動不足を見直してください。
急な温度変化を避けましょう!
急激な温度変化(特に暖かいところから寒いところへの温度変化)は、血圧の上昇を引き起こし、脳卒中発症の引き金になることがあります。寒い時期の外出や入浴・トイレに行くときには特に注意してください。
水分補給をしっかりと!
水分が足りず体が脱水状態になると、血流低下により血栓ができやすくなり、脳梗塞の引き金になることがあります。特に夏には汗を多くかくため、こまめな水分補給が重要です。歳とともに渇きを感じにくくなるため、高齢者の方は季節を問わず定期的な水分補給を心がけてください。また、発熱時や下痢をしている時も脱水になりやすいので注意が必要です。
脳卒中の治療
脳卒中の治療が時間との勝負です。後遺症を少なくするためにも、脳梗塞は発症後に一刻も早く治療を開始する必要があります。
1)脳梗塞の治療
急性期の24時間以内に少しでも脳のダメージを少なくし後遺症を減らすためには、つまった血管を再開通させる必要があります。その方法として、おもに「血栓溶解療法(rt-PA静注療法)」、「血栓回収療法(カテーテルを用いた血管内治療)」の2つがあります。
血栓溶解療法(rt-PA静注療法)
遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクティベータ(recombinant tissue-type plasminogen activator: 一般名アルテプラーゼ)という血液のかたまり(血栓)を溶かすお薬です。この治療は、脳の血管につまった血栓を溶かすことによって、脳の血液の流れを回復させ、脳梗塞を治療するものです。このrt-PA静注療法は脳卒中治療のトレーニングを受けた医師が常駐している専門医療機関でしか行えない治療です。脳梗塞の治療では、出来るだけ早く脳の血液の流れを良くすることが大切です。rt-PAの使用は脳梗塞を発症してから4.5時間以内で有効な効果が見込まれます。脳梗塞を発症してから時間が長く経過した場合、rt-PAの使用により脳出血を起こす危険性があります。脳卒中を疑ったときに、見逃さず、ためらわず、直ちに救急車を呼んで専門医療機関を受診することが重要です。
血栓回収療法(カテーテルを用いた血管内治療)
近年の急速な血管内治療の進歩により、rt-PA静注療法が無効な場合でも、カテーテルを用いて閉塞した脳血管を再開通させることが可能となってきています。原則として8時間以内のカテーテル治療で血栓を回収し、再開通させることで後遺症を軽減させる可能性があります。また、十分な脳血流検査を行ってさらに適応を拡大する試みが行われています。カテーテルを用いた血管内治療は、脳神経血管内治療専門医によって行われていますので、脳血管のカテーテル治療の専門医が常駐している専門医療機関を救急受診する必要があります。
その他、急性期治療として、また再発予防治療として、抗凝固薬や抗血小板薬などを点滴したり飲み薬として用いて、脳の血液の流れの改善を促したり、血栓をできにくくします。おもに心原性脳塞栓では抗凝固薬、アテローム血栓性脳梗塞では抗血小板薬を用います。
2)脳出血の治療
血圧の管理が最も重要で、まず降圧剤などの内科的治療により血腫の増大を予防します。血腫の量が多い場合や脳幹部への圧迫が進行して命に関わる場合など、必要に応じて外科的に血腫を取り除くための手術を行う場合もあります。
3)くも膜下出血の治療
くも膜下出血のおもな原因は脳動脈瘤の破裂によるものです。再破裂が起こった場合は生命に危険がおよぶ可能性が極めて高くなりますので、緊急で出血の原因である瘤(血管のコブ)の再破裂を防止し再出血を予防することが必要となります。方法としては、開頭術によって瘤の根元を金属性のクリップで挟む方法や、カテーテルを血管内に挿入し瘤の中にコイルをつめて血液の流れを止める治療法があります。再出血の予防のための治療後も、脳血管攣縮(脳動脈が糸のように細くなり広範な脳梗塞をおこしてしまう)や水頭症(脳室に脳脊髄液がたまり認知機能が低下する)などの合併症が起こりえますので、厳重な管理が必要となります。
4)退院後
脳卒中では再発予防が重要となります。まず、生活習慣の見直しを徹底しましょう。各脳卒中の病型に合わせた再発予防が必要です。脳卒中再発予防の薬は一生続ける必要があります。担当の医師の指示に従い継続的に適切なお薬を服用し、必要に応じて画像検査をうけてください。
脳卒中のリハビリテーション
脳卒中を発症した後、手足の麻痺や言語の障害が出現することが少なくありません。また、急性期の治療後も後遺症として持続してしまうことがあります。状態に応じた最大限の回復を目指し、また後遺症をかかえながらでもより良い生活を送ることができるように、早期よりリハビリテーションが行われます。また、一旦機能が低下すると短時間で元の通りに戻すことは困難なことも多く、入院中も退院後も継続していくことが必要となります。
リハビリテーションには理学療法士による手足の麻痺回復のための基本的な動作訓練や、作業療法士による手指の細かな作業訓練、言語療法士による言語訓練・口や舌を動かす練習、看護師による生活指導などがあります。
急性期のリハビリテーション
寝たきりによって起こる筋力の低下、関節の拘縮予防、肺炎などの合併症予防の目的で、発症後できるだけ早期から理学療法士などがベットサイドで手足の曲げ伸ばしや関節の運動、正しい姿勢の保持などを行います。
回復期のリハビリテーション
脳卒中を発症し状態が落ち着いてから6ヶ月までは回復期と言われています。この期間に集中的にリハビリテーションを行うことで生活の質の改善が期待できると考えられています。急性期を脱して脳卒中治療が安定してきたら、なるべく早くリハビリテーションの専門病院に移って集中的にリハビリテーションを行うことが必要です。
維持期のリハビリテーション
回復期終了後は維持期と言われています。維持期の訓練の内容は、集中して行う専門的な訓練から生活に応じた簡単な訓練を続けていくことが中心となります。リハビリテーションを続けていくことで残された機能が維持できます。時には麻痺していた手足が少しずつ動くようになったり、言葉の出にくさが改善したりといった障害されていた機能の向上がみられる場合もあります。リハビリテーション外来を有する施設に通院すると、入院時と近い内容で運動の継続が可能な場合があります。また、介護保険の給付を受けるとデイケアの通所時にリハビリテーションを保険診療で行うことや、訪問リハビリテーションを導入することも可能です。担当のケアマネージャーと相談し、症状にあったリハビリテーションを決めていただくのが良いと思います。
リハビリテーションの継続は患者さんご本人のみならずご家族にとっても大変なことかもしれませんが、「入院中、退院後にいずれにおいても毎日の生活そのものがリハビリテーション」です。医療者とよく相談し、医療福祉制度や施設をうまく活用しながら、ライフスタイルに合った訓練方法を用いて、根気よくリハビリテーションを継続していきましょう。