滋賀医科大学 脳神経外科学講座

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各疾患説明 頭部外傷

頭部外傷

当院では救急科と脳神経外科が協力しながら頭部外傷の治療を行なっています。頭部外傷には、頭蓋骨骨折、急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、脳挫傷、びまん性軸索損傷、慢性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血などがあります。脳神経外科では主として手術加療を要する頭部外傷の治療に従事しています。代表的な疾患を下記に提示します。

慢性硬膜下血腫

脳は硬膜という保護膜で覆われており、この硬膜と脳の間に被膜で包まれた暗赤色の血腫が貯留することを慢性硬膜下血腫といいます。頭部外傷が主な原因であり、受傷から3週間から3ヶ月程度で血腫が生じ、緩徐に増大することで脳を圧迫し症状が現れます。主な症状は頭痛、手足の麻痺、意識障害などですが、高齢者では認知機能低下や記憶障害(物忘れ)などの症状を呈することも多い疾患です。血腫は片側(右か左いずれか)に生じることも両側性のこともあります。

診断はC T検査で行われ、血腫は頭蓋内、脳の表面に三日月状に描出されます。時に血腫による圧排で脳の変形(正中偏位)や脳室(脳脊髄液の貯留する空間)の変形を認めることがあります。血腫の量が少ない場合や症状を伴わない場合は経過観察や内服加療を行うこともあり、逆に血腫量が多い場合や症状を伴う場合には手術加療を行います。

手術では局所麻酔下に穿頭(せんとう:頭蓋骨に穴をあける)を行い、貯留した血腫を体外に排出します。血腫腔(血腫の溜まっていた空間)に一晩チューブを留置し、残存した血腫をさらに排出させることもあります。ほとんどの場合、手術により症状は劇的に改善します。適切な治療により良好な予後を見込むことができますが、1割程度の患者さんで再発(血腫の再貯留)を認めることがあり、複数回の手術を要することもあります。

急性硬膜下血腫

頭部外傷により、脳を覆う硬膜と脳との間に急速に血腫が貯留することを急性硬膜下血腫と言います。打撲等の頭部外傷による脳挫傷や脳表の血管損傷が原因で生じ、経過は比較的急速です。受傷直後に意識障害や手足の麻痺などの症状を伴うこともありますが、受傷直後は目立った症状がなく、数時間の経過で症状が進行する場合もあります。

診断はCT検査で行われ、頭蓋内、脳の表面に血腫が三日月状に認められたら急性硬膜下血腫と診断します。血腫の量や脳への圧排の程度、全身状態や症状などを統合的に判断し、手術を行うか判断します。手術では開頭手術による血腫の除去と出血源の止血を行います。時に頭蓋骨を外すことで頭蓋内圧の上昇を防ぐ治療(外減圧術)が必要となります。また術後は抗浮腫薬を中心とした点滴治療での頭蓋内圧コントロールが必要となります。手術を要する重篤な急性硬膜下血腫では死亡率が60%程度とされており、非常に予後の悪い病態の一つです。

急性硬膜外血腫

頭部外傷により頭蓋骨と脳を覆う硬膜との間に血腫が貯留することを指します。頭蓋骨骨折により硬膜上の血管や静脈洞(硬膜が壁を構成する太い静脈路)が損傷して生じることが多い疾患です。また骨と硬膜が比較的強固にくっついている乳幼児や高齢者には生じにくく、若年者に多い疾患でもあります。受傷直後は意識の状態が良く、その後緩徐に血腫が増大することで意識障害や頭痛、嘔吐などの症状が進行するという特徴があります。診断はC T検査で行い、画像上頭蓋骨と脳の間に凸レンズのような形状をした血腫を認めます。

血腫の量や脳への圧排の程度、全身状態や症状などを統合的に判断し、手術を行うか判断します。手術では開頭術による血腫除去や出血源の止血を行います。脳への損傷を伴わない場合など、良好な転機も期待できる疾患であり、適切な治療介入が必要とされます。

脳挫傷

頭部外傷により脳そのものがダメージを受けることを脳挫傷といいます。①直接打撃により打撲箇所の直下の脳に脳挫傷が生じる、②頭部外傷により頭部に加速する力や回転する力が加わり、頭蓋骨の中で揺さぶられた脳が周囲骨構造にぶつかり脳挫傷が生じる、などの成因が知られています。頭蓋骨骨折や急性硬膜下血腫などを合併することがあります。

診断にはCT検査やMRI検査を行います。受傷直後の画像所見でははっきりしなかった脳挫傷であっても、時間経過ともに明瞭化することがあります。頭痛や意識障害、損傷箇所に応じた種々の神経症状(言語障害、運動麻痺、視機能障害など)などを呈します。脳挫傷部位の出血や脳浮腫が拡大し、症状が増悪することがあります。脳挫傷部位の血腫の量や脳への圧排の程度により生命に危険が及ぶことがあり、増悪の予防や救命を目的とした手術加療を必要とすることがあります。

頭蓋骨骨折

頭蓋骨骨折は骨折の形状などで以下のように分類されています。

  • 開放性骨折:脳を覆う硬膜の損傷を伴い、外界と頭蓋内に交通がある状態
  • 閉鎖性骨折:頭蓋内と頭蓋外に交通のない骨折
  • 陥没骨折:骨折により頭蓋骨の一部が内側(脳側)に落ち窪んだ状態となる。開放性骨折の原因となりうる
  • 線状骨折:外傷により割れた頭蓋骨に線状の骨折線を認める

最も多い病態としては閉鎖性の線状骨折が多く、この場合手術適応になることはあまりありません。ただし頭蓋内出血(急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫、脳挫傷)を伴う場合には注意が必要となり、合併した頭蓋内出血に対して緊急の開頭手術が必要となることがあります。
また開放性骨折の頻度は高くありませんが、外界と頭蓋内に交通ができることで頭蓋内感染(髄膜炎、硬膜下膿瘍、脳膿瘍など)の危険が生じるためます。このような場合には受傷後早期の手術が必要となります。その他、閉鎖性頭蓋骨陥没骨折では陥没の程度が強い場合や審美的に容認し難い頭蓋骨変形がある場合などでは手術適応となることがあります。

その他の分類としては、骨折部位による分類があります。円蓋部骨折と頭蓋底骨折に分けられ、頭蓋底骨折では鼻腔や外耳道から血性髄液の流出、眼窩周囲や耳介後部の皮下出血が特徴的で、これらの身体所見は診断の一助となることもあります。さらに嗅覚障害、視力障害、顔面神経麻痺や聴力障害を認めることもありますので注意を要します。 診断には頭蓋単純撮影、頭部CT骨条件画像が有用です。3D-CTによる再構成像も骨折部位や形状の理解に有用です。