神経膠腫とは“脳”自体から発生する腫瘍です。神経膠腫の中には比較的悪性度が低いものと、悪性度が高いものがあります。頭の中にはリンパ節がなく、また脳腫瘍は転移することがとても少ないので、その進展状況をがんで使われる“ステージ”では分類せず、悪性の度合いである“グレード”で分類します。

グレード１の神経膠腫の代表的なものとしては毛様細胞性星細胞腫があります。小児に出来やすく、大きくなる速度がゆっくりで、手術治療のみで再発や再増大は少なく、追加治療を行わないことが多いです。

グレード２の神経膠腫には、発生の元となる脳の細胞によって、個別の名前があり、星細胞から発生すると星細胞腫、乏突起膠細胞から発生すると乏突起膠腫、上衣細胞から発生すると上衣腫のようになります。治療は、手術治療、放射線治療、抗腫瘍薬治療などがあり、これらを組み合わせて治療します。

グレード２の神経膠腫では、手足の麻痺や言語障害などの後遺症を最小限にしつつ、最大限摘出します。この一見矛盾する方針を可能にするために、術前に神経診察やMRIやCTなどの頭部の画像検査を行い、手術ではナビゲーションシステム、蛍光診断、電気刺激による神経の反応の確認、覚醒下手術などを併用します。摘出すると後遺症が残る可能性が高い場合は腫瘍の一部だけを摘出して組織の診断をする生検術を行います。

術後は発生部位、症状の有無、摘出の程度、年齢等により、しばらくMRIなどの画像検査で経過観察を行うか、早期に放射線治療や抗腫瘍薬治療を追加するのかを選択します。

グレード２の神経膠腫の中には、経過中に悪性転化を生じ、後に述べるグレード３や、最も悪性度が高いグレード４に変化するものがあります。この場合、手術摘出可能であれば追加摘出を行い、放射線治療を受けていなければ、放射線療法と抗腫瘍薬を併用し、以前にすでに放射線療法をうけていれば、抗腫瘍薬による治療を開始します。 

グレード３およびグレード４の神経膠腫は悪性神経膠腫と呼ばれ、膠芽腫（グレード４）や星細胞腫グレード3、星細胞腫グレード4、乏突起膠腫グレード３などがあります。悪性神経膠腫は正常な脳に染みこむように脳の中に広がっていく性質があります。正常な脳組織との境界ははっきりせず、手術を行っても、正常な脳の中に目では見えない腫瘍細胞が残存してしまうため、完全に摘出することは出来ません。また脳には言語や運動、感覚などの機能の中枢があり、神経膠腫は多かれ少なかれその中枢に入り込んでいる可能性があり、腫瘍を摘出しようとするとその部位の脳機能が失われて後遺症が残ってしまう可能性があります。そのため、悪性神経膠腫の治療では、手術でできるだけ後遺症を残さずに大きく摘出した後に、残存する腫瘍細胞をできるだけ殺傷するというのが重要になってきます。術後残存する腫瘍細胞を殺傷する手段が放射線治療と抗腫瘍薬治療です。悪性神経膠腫では手術に放射線治療と抗腫瘍薬治療を組み合わせるのが現在の“標準治療”となっています。

手術

腫瘍をほとんど摘出できた患者さんでは、そうでなかった患者さんより手術後の寿命が長いことが報告されています。そのため手術で後遺症をできるだけ少なく、腫瘍をできるたけ多く摘出することが手術の目標になります。術前に神経診察やMRIやCTなどの頭部の画像検査を行い、手術ではナビゲーションシステム、蛍光診断、電気刺激による神経の反応の確認、覚醒下手術などを併用します。

放射線治療

行った方が、行わないより寿命が長くなることが示されています。通常は悪性神経膠腫の部位に1日1回2グレイ、30回照射する方法が標準です。

抗腫瘍薬

主に使われるのはテモゾロミドという薬剤です。放射線治療にテモゾロミド治療を追加することで、放射線治療のみの場合より寿命が長くなることが示されています。吐き気止めと一緒に内服します。

腫瘍治療電場 (TTFフィールド)療法

膠芽腫の初期治療は、手術、放射線治療、テモゾロミドによる化学療法が標準治療です。維持療法では、電場治療も延命効果が科学的に証明された標準治療です。脳内に特殊な電場を発生させて腫瘍増殖を抑制します。自宅での治療が可能です。以下のURLをご参照ください．
https://www.novocure.co.jp/therapy/

その他

術中に光線を当てて腫瘍細胞を殺傷する光線力学的療法、摘出腔に留置するタイプの抗がん剤（BCNUウエハー）、腫瘍から産生される血管新生因子を標的にした分子標的薬（ベバシズマブ）も使用可能となっています。また、摘出した腫瘍組織の遺伝子を検査し、腫瘍の遺伝子変異に効果のある分子標的薬を見つけて、治療につなげる（がんゲノム医療）という選択肢も出てきています。